大阪証券取引所ビルの北向いに、高層ビルに挟まれて建つレンガ造りの二階建ての洋館。明治45(1912)年に株仲買商(証券会社)の商館として建てられ、戦後は商社の本社として利用された後に廃ビル同然となっていたこの建物を、純英国スタイルのティーサロンとして再生させたのは、もと大阪府庁で経済経営研究職にあったオーナーの小山壽一氏です。
今回の「現場」では、小山氏にティーサロンの立ち上げについて、デザインプロデュースの観点からお話を伺いました。
※「デザインプロデュースの現場」外部取材記事です。
オープンに至るまで
この建物と出会ったのは、平成8年(1996)のこと。明治45年(1912)に建てられたレンガ造りの洋館が売りに出されていました。当時私は大阪府産業開発研究所(現・大阪産業経済リサーチセンター)に在籍しており、将来は大学で教鞭を取るか、経営コンサルタントになるか、現職に留まるかと思案していましたが、この洋館と出会い、どうにか再生させたいとの思いを強めたことで、府庁を退職し、この物件を購入しました。
退職後、イギリスに渡って約3ヶ月滞在し、古いアートハウスやティーハウスに足を運び、内装を調べ、独力でインテリアデコレーションを学びました。帰国後には“1912年当時の姿
に再現する”とのコンセプトのもと、旧知の建築会社に依頼して洋館の改装を行いました。
改装にあたっては、デザイナー・建築家に依頼せず、自ら図面を引きました。先行事例がなかったこともありますが、デザイナー独自の要素が入ってしまうことを避けるという意味でもありました。当時の姿に近づけるために、職人さんには「あえてペンキをボテッと塗ってください、刷毛むらを作ってください」といった指示を出していました。
綿密な時代考証のもと、家具からトイレ、絵画、照明器具、電気スイッチに至るまで、アンティーク製品を見つけて自ら買い付けました。工事には3ヶ月を要し、平成9年(1997)5月にお店をオープンさせました。
証券の街、北浜で
北浜はもともと証券の街で、人はあまり住んでおらず、またオフィスワーカーの多くは男性でした。ティーサロン
は英国の紅茶文化を背景とした、女性客をターゲットにしたビジネスですが、この街ではむしろ、うなぎ屋やうどん屋をやった方が流行ると言われました。それでもアフターファイブにお茶をする場所にニーズはあるはずだと読んでいました。
折しも紅茶ブームの時代で、開業早々に雑誌などで紹介されたことで、スタートは割合スムーズでした。土日は最初のうちは閑散としていましたが、徐々にお客さんが増え、近隣にスウィーツショップやレストランが増えてくると相乗効果が生まれ、街自体の集客力が上がってきました。現在では、平日は近隣のOL層や、わざわざお越しのご婦人層を中心に、週末には国内外の観光客も含め、広い範囲からの多くのお客さんにお越しいただいています。
立ち上がりの時期には、オペレーション面での苦労もありました。40席の規模でコーヒーを一杯ずつ立て、沸かしたてのお湯で紅茶を淹れ、食器をすべて手洗いする、というこだわりを守るのは大変なことです。また回転率が高くないビジネスなので、客単価との兼ね合いにも工夫が必要でした。
長続きのための経営論
改修費に加え、物件自体やアンティーク家具、食器等を購入したことにより、開業資金は約2億円に。自宅を売却した上で、銀行から多額の融資を受けてのスタートとなりました。経営の基礎を理解していたこと、先代が創業した東大阪の鉄工所からサポートを得られたこと、中小企業診断士の資格を持っており、銀行の信頼を得られたことが、ここではプラスに働きました。長く続けていくお店にするために、徹底的に本物にこだわり、レシピに工夫を凝らし、安易に追随できないお店にすること、一過性のブームに巻き込まれないようにすることを意識しました。
現在は1店舗のみを経営しています。2店目の出店に興味はありますが、それには魅力ある物件との出会い、責任感を持って働いてくれるスタッフの確保が前提となります。多店舗化を急いだことで、結果商売を畳んでしまった店をいくつも見て来たこともあり、むしろ大阪にただ一つのクオリティを維持することを、現実的な選択としています。
北浜レトロ
人気メニューはアフタヌーンティーセット(2100円)。ケーキ・スコーン2種、フィンガーサンドが三段式のケーキスタンドでサーブされる。来店客の半数以上が注文するという。40席。
大阪市中央区北浜1-1-26 北浜レトロビルヂング TEL 06-6223-5858
営業時間 月~金11:00~21:30 土・日曜・祝日11:00~19:00 ※LO30分前
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