泉州は、海外にはない日本てぬぐいのタオル版ともいえる浴用タオルの地場産地です。しかし昨今は中国製を中心とした海外低価格輸入品の台頭により国内産の需要が激減、産地の存続にも係わる厳しい時代を迎えています。
そこで産地のメーカー104社が加盟する大阪タオル工業組合では、地域ブランドを育てるために様々な新商品開発の試みを行い、平成18年には大阪府で唯一JAPANブランドに採択されたことを機に「泉州タオル・泉州こだわりタオル」を育て市場に認知させる活動を行ってきました。
(コーディネーター)
泉州は日本タオルの発祥の地と聞きましたが?
(大阪タオル工業組合 竹本利弘)
はい、泉州地域は江戸時代から綿の産地として知られていました。明治20年に里井圓治郎氏が海外から輸入されたタオルを見て、現製織方法である筬打出しを発明し、日本タオルの創始者となり産地として発展していきました。
産地として拡大したのは戦後です。日本てぬぐいに変わる浴用タオルとして愛用され、最大約700社の織屋が操業していました。大阪タオル工業組合は昭和27年10月24日に結成され、現在、104社の企業が参加しています。
(コーディネーター)
泉州タオルの特徴とはなんでしょう。
(大阪タオル工業組合)
何といっても“後晒し製法”です。晒しとは、糸についた不純物を取り除き(精錬)、白くする(漂白)工程のことで、タオルを織る際には糸切れを防ぐため、糸につけた糊(のり)や、材料である糸(綿=わた)にもともと付着している、油分や不純物をきれいに全て取り除き、漂白・水洗いする必要があります。その工程を“さらし”といいます。
後晒しのタオルは“さらし”をタオルが織り上がった後で行うことで、いろんな汚れが洗い落とされ、とても清潔で吸水性に優れた肌ざわりの良いタオルができあがります。おろしたてのタオルは吸水性が悪いからと一度洗濯をしてから使用しますが、泉州タオルはそのままお使いいただけます。
(コーディネーター)
産地の現在の状況はいかがですか?
(大阪タオル工業組合 竹本)
生産量のピークは平成2年、バブルの時代です。その後も国内のタオル需要はそれほど変動ありませんが、昨今は輸入が8割に対して国内生産が2割というように、中国製を中心とした輸入品の比率が増えています。この2割の国内生産を愛媛県の今治と泉州が二分しているというのが実情です。
このように輸入タオルが台頭するにつれ、地場の企業が廃業や撤退をよぎなくされています。
そんな現状を何とかしたいと、大阪タオル工業組合はプロデューサーの尾原久永さんとともに泉州タオルのブランド化に力を入れてきました。
(コーディネーター)
プロデューサーの株式会社尾原デザインスタジオ尾原久永さんは、前職の株式会社繊維リソースセンターの時代を含めて、大阪タオル工業組合様とは17年のお付き合いですが、泉州タオルをどのようにブランディングしてこられたのでしょうか。
(尾原)
大阪タオル工業組合様も産地を盛り上げるため、組合内で各企業のスキルアップを目指して製品の品評会を積極的に開催されていました。しかしそれはあくまで内輪だけのもので、世間の目には触れる機会がありませんでした。しかし僕としては、泉州タオルの素晴らしさを知ってもらうためには、一般消費者を含めて世間の目に触れる機会を多くつくらなければいけないと考えました。
(コーディネーター)
それで「タオルシンフォニー」という展示会を始められたのですね。
(尾原)
はい、そうです。技術に裏打ちされた製品を、できるだけ沢山の方々に見ていただきたいということで、1993年から「タオルシンフォニー」という名前で始めました。
展示会をスタートさせてから4年目位までは、まだ客先の見込みもあり国内生産量も高かったので、先染めの糸を使ってジャガードでものをつくるとか、高級志向のギフト商品をつくるというようにあらゆる模索を行っていました。しかし徐々に中国を中心とした輸入品が増えはじめ、生産量が少なくなるにつれて企業のポテンシャルが下がっていきました。このままだと輸入品に産地が食われてしまうのではないか、そんな不安をどのメーカーも持ちはじめていたのです。
(コーディネーター)
各企業のポテンシャルが下がる中、尾原さんはどうのように手腕を発揮されたのでしょう。
(尾原)
僕がデザインというツールを使って一番やりたかったのは意識改革です。メーカーのやる気を引き出し、自分達がつくっている製品に自信を持ってもらうことで、結果的にいい商品が生まれる、そのサイクルをつくりたかった。そんな各社のモチベーションを上げるひとつの手段として経済産業省のジャパンブランド事業に応募しました。幸運なことにジャパンブランドの採択が決定し、これをきっかけに泉州タオルの本格的なブランディングを始めました。
(取材日:2011.9.6)
(次回につづく)
・組合としてのブランドを訴求しつつ、個々の企業が切磋琢磨するシクミがあります。AKBの“総選挙”みたいですね。
・商品の売り先は卸、つまりB to Bです。その組合が、一般消費者向けの展示会を行い、そこから情報を集めています。
・同じくタオルの産地である今治では、佐藤可士和氏を起用してブランディングを展開しています。手法の違いに注目。
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