関西の中小企業の製造業は、良い技術をたくさん持っているが、その技術を次世代に継承できずに終わってしまう。この現実を目の前にして「なんとか中小企業の強みを活かして、その技術を継承していきたい」と始めたプロジェクト「made in west」。今回はこのプロジェクトのプロデューサーである有限会社ミランダの野口美可さんにお話をうかがいました。
(コーディネーター)
「made in west」での野口さんの役割を教えていただけますか。
(有限会社ミランダ 野口美可さん)
プロジェクトのビジョンに関してはオプスデザインで固め、実務的なことは神崎さんが中心に動いています。私は出されたビジョンに添って、ビジュアルとしてどのようにまとめ、形にしていくのかというアートディレクションを中心に仕事をしています。
(コーディネーター)
製造メーカーにも行かれますか。
(野口さん)
このプロジェクトを動かすチームには役割があって、得意な人が得意なことをやるというスタイルを取っています。
例えば、製造メーカーへのヒアリングは神崎さんとBOOK LUCKの山村光春さんが行きます。
山村さんの職業はライターですので、製造メーカーの持つストーリーを発見し引き出すのがとても上手。製造メーカーにしてみれば通常の受注発注の仕事の依頼ではなく、こちらが「話を聞かせてほしい」というスタンスのアプローチをすることで、自社が持つ強みを発見し、ストーリー化したプロダクトを自分の意思で生産できるというところに魅力を感じてくださるのだと思います。山村さんが見つけて膨らませてくれたストーリーに対して、facebookのいいね!を押すようにチーム全員が共有していきます。
その中で私の仕事は最終的にデザインに落とし込んでいくためのゴールを設定すること。神聖な気持ちでそのストーリーに耳を傾け、ものをよく見て素直に感じ、浮き上がってくるものを形にするにはどうすればいいのかを見極めてゴールを決めていきます。
(コーディネーター)
ここがゴールというのはどのように見えてくるのでしょう。
(野口さん)
私としては料理と一緒で、素材をより活かしたいのですが、一番大切なことは「made in west」としての統一したブランド感だと考えています。
各製造メーカーのストーリーも含め、すべてを共有しながら「made in west」の「統一性」「シンプル」「独自性」「経済性」というコンセプトを軸に “うちの製品がこんな風になるのか”という発見を製造メーカーの方々にしてもらえる遊び心を創りだすこと、それがゴールの基準ですね。
(コーディネーター)
どのくらいの方が「made in west」に関わっているのですか。
(野口さん)
製造メーカー、デザイナーなどを含めて約30人でしょうか。このプロジェクトがユニークなのは、オプスデザインのスクールの生徒さんも含めて沢山のメンバーが意見交換をしながらものができてしまうところです。私は極力何もせず、個々の感性を引きだしながら植物が育つ様に、ものが生まれるというのが理想ですね。ただ「made in west」の種は品種が多いので、それをひとつの幹にするというのは正直大変です。
ちょっとこの辺りが弱ってきているから水をあげようかとか、今日は外に出して風に当ててあげようとか、ワークショップの様なプロセスも含め
、一人の感性が全面に出るのではなく「made in west」というブランドを同じ温度で共有したときに生まれる完成度を楽しむようにしています。
これも実質的なマネジメントを神崎さんが走りまわってくださっているからですけど。
(コーディネーター)
野口さんと神崎さんの役割分担はどうされているのですか。
(株式会社オプスデザイン 神崎美恵子さん)
私は製造メーカーさんの良さを伝え、それがちゃんと表現されているかどうかの意見は言いますが、デザインは一切しません、そこは明確ですね。
オプスデザインには企業とクリエイター、デザイナーが根幹を超えて自由な発想でブランディングを成立させ、様々なフィールドを生みだしていく“オプスフィールド”というコンセプトがあります。「made in west」も同じだなとつくづく思います。関西の製造メーカーとクリエイターが「made in west」という実験場に集い魅力的なストーリーを紡ぎはじめたのだと。
(野口さん)
これまでは個々の製造メーカーとクリエイターのコラボレーションから生まれた商品でしたが、新しい動きとしてプリデリがつくるイエティというぬいぐるみのキャラクターを軸に、プリデリと神藤タオル、神戸ザックの3社でひとつのストーリーで連動したものを展開しはじめました。
(神崎さん)
これまでにも製造メーカーが数社集まって何かつくろうというプロジェクトは沢山あったと思います。しかし今回のような「made in west」のストーリーをベースにデザインで製造メーカー同士を結びつける試みはなかったと思います。各社が個性をぶつけ合うのではなく共同作業の場として、今後はクリエイターが関わることで、小規模であっても素敵なものづくりをしている方と工場を持つ製造メーカーをつなぐことで、新しいことをどんどん実現したいと考えています。
(取材日 2011.12.5)
オプスデザイン・プロデューサー野口さんのツボ
・メーカーの持つストーリーを発見し、引き出し、デザインに落とし込む、という手法を取っています。
・表現の方向性を示す人と、実際のデザイニングにあたる人とを分けています。
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