デザインプロデュースの現場


売れる商品づくりには「デザインプロデュース」が欠かせない(1)

  • 2011年10月19日(水) 16:38 JST
  • 投稿者:
    matsumoto

下川氏


おおさか地域創造ファンド【デザインプロデュース型開発促進事業】のキックオフセミナー&事業説明会が2011年5月23日に開催されました。マイドームおおさか8階には185人の方々が詰めかけ熱気を帯びた会場となりました。

キックオフセミナーの講師は、日経デザイン編集長下川一哉氏。下川氏にはデザインプロデュースによって売れる商品づくりに成功した中小企業の事例と、デザインプロデュースの重要性を解説していただきました。

セミナー終了後、今年度より事業統括コーディネートを務める山納洋氏、コーディネーターの松本希子氏より着任の挨拶、引き続き財団法人大阪産業振興機構、大阪産業デザインセンターから【デザインプロデュース型開発促進事業】の応募要項及び申請に関する説明が行われ、質疑応答の終了をもって閉会しました。

セミナー経済産業省、中小企業庁のジャパンブランド育成支援事業が起爆剤となり、この5、6年で日本の産地が改めてデザインを利用して新しいものづくりに挑もう、また産地特有のブランドを築いていこうという動きが活発化している。

ただ、あくまでデザインはひとつのツールでありビジネス的に大きな成果を生み出すことがゴール。既存のビジネススタイルや技術、素材に留まることなく、デザインを活性剤として使い、モノ作りやブランディングに革新をもたらし、ビジネスに大きな成果を生むためのプロデュースこそがデザインプロデュースといえる。そのスキームを「デザイン活性化型ビジネス」と日経デザインでは提唱している。

この「デザイン活性型ビジネス」とは、デザインを経営や技術への足し算ではなく、モノ作りやコミュニケーションなどの様々なビジネスの局面で作用する掛け算と捉え実践するビジネスの新しい手法だ。

デザインをビジネスの根幹に深くかかわり、問題解決と革新をもたらすナレッジやツールと位置づけ、活性剤として経営の中で機能させている状態を「Design Active」な状態といい、「あなたの仕事×デザイン」によって多くの成果がもたらされる。

デザインプロデュースが目指すのは、ビジネスの中でいかに「Design Active」な状態を創り出すことであり、それによって製品のブランドの価値が革新的に市場に伝わり評価され、そのプロセスを導き出すのがデザインプロデュースの業務だと考える。

【事例1.enn】https://whoswho.jagda.or.jp/jp/portfolio/1776.html

デザインプロデューサー:左合ひとみ(グラフィックデザイナー)

ennカトラリーなどの金属加工で知られる産地、新潟県燕市がジャパンブランド事業を利用して行ったプロジェクト。既存の金属加工の素材流通に新しいブランドをつくりヨーロッパの市場を中心に販路を広げたいと2006年に「enn」というブランドを立ち上げた。

「enn」ではグラフィックデザイナー佐合ひとみ氏の女性らしいデザイン、日本らしい自然表情、高い技術を備えた製品としてブランドストーリーを展開。 最初に狙ったマーケットはヨーロッパの高級なレストランやホテルだ。

見本市では有名ホテルもしくは有名レストラン、NY近代美術館などで「誰」が採用したのかが大きな話題であり、バイイングのバリューとなっている。

実際、第一弾で投入された漆カトラリー黒と赤の製品はロブションのレストランで採用され、「enn」は大きなチャンスを捕まえ波にのることができた。このように実績をつくりブランドを浸透させた上で、少し低価格の商品を一般の市場に広げていくという製品開発を計画し、マーケットにつなぐということもデザインプロデュースの中で非常に大切な業務である。

ennのどこが「Design Active」なのか

  1. これまで蓄積してきた技術をベースに、その機能を生かしながらデザインによって地域産業の素材・技術革新が新しい価値を持った。
  2. デザインとマーケティングが一致。
  3. ブランドの成長ストーリーとデザインが一致。
  4. コミュニケーションデザインがうまい=コミュニケーションデザインのプロとして力を持った左合ひとみ氏をプロデューサーに起用したことが成功のポイント。

山納さん

ennのデザインの「ツボ」
{ブランドを築くフィールドと、実売を上げるフィールドを分けていますね。}


【事例2 日吉屋 古都里】https://www.wagasa.com/catalog/

デザインプロデューサー:西堀耕太郎(日吉屋社長)

古都里西堀耕太郎氏は京都の老舗の和傘屋日吉屋の経営者という立場でデザインプロデュースを行う。

日吉屋は、和傘屋でありながらヨーロッパでは照明メーカーとして高い評価を受けている。これも全て西堀氏のプロデュース能力の高さゆえである。

日本の中で和傘の需要は少なく、和傘の技術を応用してランプシェードをつりたいと、西堀氏は考えていた。和傘の竹の規則性と和紙を貼った透け感に照明器具としての可能性を強く感じていたからだ。しかし職人の技術と自分のアイデアだけでは和傘の基本構造を崩すことができなかったため、照明デザイナーを起用し基本技術を伝え新しい照明器具の在り方の提案を依頼した。

いくつかのデザイン提案が出された中で、接点を開放し竹を平行にした構造が最も合理的で魅力的であった。この基本的な構造が見つかったことによってシンプルな照明器具が誕生した。このことが「古都里」というブランドの可能性を大きく開花させた。

パリで開かれるメゾンドオブジェや照明の専門見本市に出展。基本構造が傘なので折り畳むことができ輸送コストも削減できるメリット、また製造工程の簡素化など様々なことに成功している。

西堀氏はどの展示会でも自らブースに立って多くのバイヤーと積極的に話をする。その中でバイヤーのニーズをキャッチし、すぐにデザインと技術に反映させて新しい製品を生み出すのだ。このことひとつを見ても、経営者でありながらデザインプロデュースを実践する彼の決意が伺える。

日吉屋のどこが「Design Active」なのか

  1. 老舗メーカーの素材と技術がデザインによって、新しいモノ作りに生まれ変わった→傘屋が照明をつくったではなくシェードメーカーとしての進化を遂げる。
  2. 市場のニーズをデザインにうまく反映した。
  3. 伝統をベースにしながら“革新”に挑んだ。

山納さん

日吉屋のデザインの「ツボ」
{多くのバイヤーと話をして、ニーズをキャッチし、製品開発に活かすサイクルを意識しています。}


(2)に続きます

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