デザインはビジネスのサポーターではなく、デザインをビジネスの問題解決と革新をもたらすナレッジやツールと位置づけ、活性剤として経営の中で機能させようというデザインプロデュース手法が注目され始めています。
前回は新潟県燕市×左合ひとみ(グラフィックデザイナー)「enn」プロジェクト、日吉屋×西堀耕太郎(日吉屋社長)「古都里」の事例をひもときながらデザインプロデュースにおける「Design Active」を下川氏からご紹介いただきました。
その続きとして今回も日経デザイン編集長の下川一哉氏が高知県馬路村と越中富山の事例を解説しつつデザインプロデュースの核心に迫っていきます。
【事例3 高知県馬路村 monacca】https://monacca.jp/
デザインプロデューサー:島村卓美(プロダクトデザイナー)
高知県馬路村は柚子の産地としては知られているが、地方の山村に多くみられる膨大な杉林を抱えており、その使い道に困っていた。
杉の間伐材をスライスし、型で圧力をかけてプレートにした使い捨てのトレーを生産していたが、実際に杉板で型押したトレーでは単価として使い捨てにはならないということが判明し事業は中断していた。
その状況を打開したいとあるシンクタンクがプロダクトデザイナーの島村卓美氏に相談。
島村氏は第一弾として、二枚の杉プレートを合わせたような鞄を提案。鞄に関する技術は他の鞄産地に協力を依頼した。彼は試作品を日経デザインや小学館のサライの通販に持ち込むなど、商品のプレスリリースから販路開拓まで積極的に行っていった。
商品も当初は柾目を活かしたものだったが、節を活かしたデザインを欧米の展示会に出展、ニューヨーク近代美術館のMOMAが仕入れることで知られるようになった。
山間部である馬路村は柚子以外になんの地場産業もなかったが、杉の間伐材がデザインの力で世界に発信するファッション産業が生まれた。さらにブランドの成長を図るステップに移るために、この技術を生かしたデザインコンペを開催し、デザインアイデアを集めた。
高知県馬路村のどこが「Design Active」なのか
monaccaのデザインの「ツボ」
{提案活動をすると、情報が集まる。その情報が次のステップづくりに役立っています。}
【事例4 超中富山お土産プロジェクト】http://www.sachinokowake.com/
プロデューサー:富山県総合デザインセンター
富山県は海・山・里の幸が豊かで食文化の宝庫である。この富山県の“食”を全国にアピールできる土産をプロデュースするプロジェクトが「越中富山お土産プロジェクト」だ。
越中富山の薬売りをもじった「越中富山土産」。富山県の郷土色豊かな食品をロゴとサイズを統一し、ひとつの鞄にパッケージングした。
パッケージングする商品は地元の料理研究家、デザイナーなどがセレクションして協力メーカーを決定、グラフィックデザインを統一することで、富山県の豊かな食文化をひとまとめにしたブランディングを行った。
富山県には“おすそわけ文化”があり、その地元ならではのおすそわけという慣習を取り入れ、あえて商品サイズを小さくすることで新しい価値観を創造した。
例えば富山県産のコシヒカリ2合、かまぼこ、日本酒もあと少し欲しいと思えるサイズにしたところがポイント。おいしい、また食べたいと思わせる、絶妙なサイズ感で、オーダーしたい!と思わせアクションにつなげる。サイズマーケットという手法の選択だ。
越中富山お土産プロジェクトのどこが「Design Active」なのか
越中富山お土産プロジェクトのデザインの「ツボ」
{「越中富山の薬売り」のように、多くの人の中にイメージがあるものは、使える資源かも。}
【4つの事例を踏まえて、ビジネスの中でデザインプロデュースを考えてみる】
デザインプロデュースを誰がすべきかには決まりはない。
「enn」はグラフィックデザイナー、「日吉屋 古都里」は経営者、「馬路村monacca」はプロダクトデザイナー、「越中富山お土産プロジェクト」では富山総合デザインセンターと立場は様々だ。
最近のケースではショップの人達が自分達の売り場をつくるにあたりプロデューサーを買って出て、産地とメーカーとデザイナーを自らのショップで売るという、リスクをできるだけ回避した事例も出てきている。
デザインプロデューサーという人達はなかなか世の中にはいない。誰がなってもいいが、その事業によって誰がなるのかということが大切である。
またビジネスの中でデザインプロデュースを考えるには、ビジネスに革新を起こす「経営・技術・デザイン」という三位一体の法則がある。
例えば、パナソニックのような大きな企業であっても、小さな事業所であっても革新をもたらすためにはデザインというものが必ず必要。
ある革新的な製品をつくりたい、市場に投入してこれだけの利益を上げたいというときには、当然技術には投資をするがそれだけではマーケットには投入できない。また反対にデザイナーも絵を描き、アイデアを出し試作をつくる。しかし最終的にはやはり経営者の決断と技術者の協力がなければそれは絵に描いた餅となる。
このデザインと経営と技術をどう組み合わせてモノづくりが出来るのかというのが、デザインプロデュースの大きなミッションとなる。
【では、デザインとは何か?】
ブランドと市場の接点すべてにデザインが必要だ。
見本市のブース、ブランドの背景がわかるブランドブックといったものをどうデザインするか。またニュースリリース、ビジネスレター。工業製品だとパッケージをデザインすることも必要だ。プロダクトデザインやスペースデザインも大切になってくる。
さらにグラフィック、エディトリアル、パッケージといった様々なデザインがマーケット間にきちんと設定されてこそ、ブランドの価値が噴出される。
個々の部分を捉えてデザインということもあり、トータルな部分でのデザインということもある。ひとつのデザインに注力することで、他のデザインが手薄になることは避けることが懸命だ。さらに製品づくりに熱中しすぎ、そこで息絶えて先にすすめないことも避けたい。
また市場に投入すると購買者の人たちとの接点をいかにつくりあげるのか、こういったこともブランディングという点で重要なデザインである。
新しいブランドを技術や素材、産地の問題点の解決のためにつくる。
その産地のメーカーにふさわしいものをゼロから描くということが大切で、自分の作品嗜好や作風を強く持っていない。この問題に対して適切なデザインを提供するデザイナーを選ぶことが必要だ。
どこからどこまでつきあってくれるのか、問題解決、技術革新まで求められるのであれば、早い段階から参加したいというデザイナーも多い。どのようなかかわり方をしてくれるデザイナーと組むのかも重要である。
市場とのすべての接点をデザインでどうつくり表現していくのか。
デザインというものは華燭とか形のみと考えるではなく、経営の早い段階から各プロセスに対応してデザインの力というものを使う。
時間のマネージメント、時間軸でデザインプロデュースを考える。
例えば、ジャパンブランドの初期の段階において、現実の作業は1年目と2年はリンクしている。2年目、3年目はオーバーアウトしていく。1年目が終わってから、2年目を考えるというのでは遅い。プロダクト、コミュニケーション系のデザインは最後にこんなものが必要と頭に入れて時間割をつくる。時間割がうまくできているところは成功している。
デザインプロデュースという仕事はデザインと経営の橋渡し。
デザイナーは誰か、必要なデザインは何かどれだけの時間が必要なのか。
あるいは自らがデザインプロデュース業というものを立ち上げて、いろんなところを回るという積極的なやりかたもある。
しかしどんなやり方であっても、デザインプロデュースが目指すのはビジネスの中でいかに「Design Active」な状態を創出できるかにつきる。
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