「デザインプロデュースの現場」外部取材記事です。
プラスチック成型業を営む株式会社キューブエッグが、株式会社ワイエスデザインと共に開発したランチボックス「スマートBENTO」は、平成20年3月の発売後、3ヶ月で2万個を売るヒット商品。
株式会社キューブエッグの代表取締役・佐々木孝之氏は「ともに会社の規模が小さく、フットワークの軽い者同士のコラボレーションが効を奏した」と語りますが、その成功のツボはどこにあったのでしょう。
金型は、削る方向になら修正ができる
<株式会社キューブエッグ 佐々木 孝之 社長>
私自身の前職は商社。平成17年に下請けのプラスチック成型の会社を買いましたが、経営状態が良くなかったので、会社を存続するため、自社商品開発を目指すようになりました。
野口さんとは、大阪市の産業創造館で出会い、すでに開発していた「箸入れ」のプチデザイン修正の相談をしたのがきっかけで、話し込んでいるうちに「プロダクト自体のデザインをやりましょう」ということに。
<株式会社ワイエスデザイン 野口 聡 社長>
箸入れは、すでに金型が出来上がっていましたが、金型を新たに作り直すと何百万もの追加投資が必要となるため、現行の金型を削り、製品の厚みを増やす方向で調整しました。改良品では商品の表面にRをつけ、箱入れ上面のやわらかい部分に指を置くと、開ける方向が自然に分かるデザインにしました。
他にない形の弁当箱を
<佐々木さん>
その後、野口さんに「パッと見て欲しくなるもの、フランフランのお客様が買いたくなるものを」と弁当箱のデザインを依頼しました。6案ほど提案いただいたが、最初の段階でいまの案に決まり、その後はそれを商品に落とし込むチューニング作業をやってもらいました。
<野口さん>
実は、提案前日までものすごく悩んでいました。どうやってもいまある弁当箱と似たような形になってしまう。そこでRの方向を変え、カバンにすっと入るように幅を薄くし、形も美味しそうに見えるように、ハイジがおじいさんから手渡されていたパンやチーズをイメージしてスケッチを描き、発泡スチロールを削って提案しました。
この商品は、内ブタが外から見えないようにつくってあります。内ブタはパッキンの役割を果たすので、上からかぶせる形にしないと、中身がこぼれてしまう。今回のデザインは、成型のプロである佐々木さんの力があったからこそ実現したものです。
<佐々木さん>
この商品開発では、「作りやすさよりも、他にない形のものにしたい」という意識を強く持っていました。弁当箱のタブーを破った形なので、苦労はいろいろありました。
<野口さん>
事務所内では、「角があるので洗いにくい」「お弁当を詰めても美味しそうに見えない」との意見もたくさん出ましたが、モデルを作ってコンビニの弁当を詰めてみるとほとんど食材が入り、「詰めやすい」「つぶれない」というメリットがあることが判りました。発売後のネットの書き込みでは、洗いにくいのではと危惧していた点は、「食洗機やつけおき洗いで対応できる」、また「薄いのでカバンに入りやすい」「食材をどう詰めていったらいいか悩まなくて済む」といったポジティブな意見を多くいただけました。
売り込みに回ると、掛け率が下がる
<コーディネーター>
販路開拓やプロモーションには、どんな工夫を?
<佐々木さん>
うちが商品を納めている問屋から、東急ハンズに商品を提案してもらいました。またプロモーションとして、一度だけマスコミ向けにプレスリリースの一斉配信をしました。その記事を見て「笑っていいとも」のディレクターの方から連絡をいただき、取り上げていただいたことから火がつきました。テレビの情報番組や新聞で何度も紹介していただき、結果3ヶ月で2万個が売れるヒット商品になりました。
<コーディネーター>
展示会への出展は?
<佐々木さん>
展示会には、ほとんど出していません。表参道、代官山などに営業に回ったこともありますが、こちらから売りにいくと玄関払いになることが多く、買ってもらえる場合でも掛け率が安くなります。そこでこちらから出向くのはではなく、向こうから来てもらうための仕掛けを考えるようになりました。商品企画段階で、最小、最薄などのウリをマスコミに積極的にPRし、メディアでの紹介を見て興味を持ってくれた人からのアプローチを待ちました。
ホームページも、きちんと育てておくと、販促のための重要なツールになります。SEO対策を行い、定期的に写真を変え、データ解析をしっかりと行っています。検索サイトで一番になると、成約率は上がります。今期はすでにホームページである程度の売上があがっています。
困っている人のニーズを、徹底的に掘り下げる
<コーディネーター>
市場調査は?
<佐々木さん>
していません。今の商品に不満を感じている人がいれば、それを解決する商品には必ずニーズが存在します。私が取っているのはマス戦略ではなくニッチ戦略なので、市場の1%を取れれば、それで十分だと思っています。
<野口さん>
社内で企画を通すときの説得材料として、その結果を必要としている会社もあるので、うちはマーケティング会社と組んで市場調査をすることもあります。ただ、市場調査をしなくても、一人の人が困っていることを徹底的に掘り下げて商品をつくれば、それを“イイネ”と言って買ってくれる人は、確実にいます。焦点の定まらない6〜7割をターゲットにするより、身近な人、たとえば自分の母親のためだけに商品を開発するといった、ピンポイントに絞り込んだ方が、ニッチ戦略としては効果的だと思います。
この商品の場合、多くの女性は“大きなお弁当箱を持っていると見られたくないと思っている”ということから、薄いけれど結構入る弁当箱には、潜在的なニーズがあったのだと思います。
商品開発において、「何かをあきらめている人がいる」、それを解決するためにどうすればいいかを考え、そこに自社が持っている技術をつなげていくという発想が大事なことだと思っています。
(取材日 2012.5.23)
・金型は、新たに作り直すと何百万もかかるが、金型を削り、製品の厚みを増やす方向には調整可能。
・メーカーの社長みずから、マスコミ向けにプレスリリースの一斉配信をしています。
・<佐々木さん>こちらから行くと安く叩かれるため、向こうから来てもらう仕掛けを考える。
サイト管理者はコメントに関する責任を負いません。