大阪市西区京町堀に事務所を置く有限会社セメントプロデュースデザインは、グラフィックデザイン、デザイン商品の開発・販売、販促プロデュースを手掛けています。特に愛知の瀬戸、京都、北海道の旭川、大阪の泉州、愛媛の今治、岐阜の多治見など、全国の産地企業と連携して商品を開発し、独自の卸売りルートを使って全国500店舗の雑貨セレクトショップに流通させています。
同社代表取締役の金谷勉氏に、製造者とのコラボレーションに必要な要素についてお話を伺いました。
独立、そして自社商品の開発
大学卒業後、企画制作会社に入社。その後制作プロダクションに移り、大手広告代理店の下請で広告制作を行っていました。待遇は良かったのですが、社内でものづくりをしたいと考えていた僕にとって、与えられた仕事をこなすだけでみずから仕事を作り出すことができない状況をもどかしく感じていました。
セメントプロデュースデザインを設立したのは1999年、28歳の時で、自宅の四畳半で開業しました。当時は貯金もなく、営業して仕事をもらいつつ先輩にデザインを依頼して、前の会社から社員を一人連れてきて、どうにか回していました。
自社商品としては、2001年頃に「Happy Face Clip」という、1個 20枚入、525円のクリップを最初に作りました。当初10万円程度のテスト用の金型で量産しようしたため、思うように抜けないという失敗をしました。その後東大阪のメーカーに、月賦払いで本製造用の金型を数十万円で発注しました。利益を出せるロットが1万個だったので、1年間かけて売っていこうとGOをかけました。
この商品を開発、販売する過程で、2つの障壁にぶつかりました。1つは口座開設の問題です。1種類の商品では口座を開いてもらえなかったため、他のメーカーの商品を一緒に売り回りました。2つ目は資金繰りです。ショップからの入金は30日後で、製造費用は先に支払うので、商品が売れるようになってきた段階で、現金がショートしました。請負仕事の収入でどうにかつないでいましたが、最終的には保証協会、国民生活金融公庫で借金をしました。この時に自分たちで作って売っていくリスクを感じました。
それでも自社商品の開発に取り組むのは、市場の動向を把握し、売れる背景を持っておきたいという思いがあるからです。企業から相談を受けた案件で、売り場、市場を分かっていたら「こうしましょうよ」と言えます。必要なのはデザインじゃなく、自分たちで売り場、商流を持つことだと気づきました。
その後、瀬戸の型職人さんたちと一緒に、「Perch Cup」という、とまり木にリス、小鳥が乗ったデザインのマグカップを開発しました。当初頂いた依頼は、自身で制作されたプレートの販売プロデュースだったのですが、皿という商品はサイズ・種類を複数展開しないといけない、コスト競争や販路開拓が厳しいなどハードルが高いこととから、現在のプレートの企画をいったん止めていただきました。そして彼らが持つ細かい成型技術を活かし、海外製品、大メーカー製品との価格競合にならず、広く販売展開できる製品にするというコンセプトを立て、製品の企画に入りました。
製造原価の検討段階で、初期のロットを1000以上にしないと合わないと分かりましたが、1デザインで1000個を焼いてしまうと、デッドストックになるリスクが高くなります。そこで初回発注分ではできるだけ多品種で少量展開できるようにと、カップのベースデザインを2種類にして、釉薬でカラー点数を5色に増やしました。
色は後からつけられるので、実際に市場に投入した後に売れないものを廃盤にしていくことで、リスクをヘッジすることができるという考えです。おかげさまでこの商品は、当初の予想を超えた注文をいただいています。
また僕らは、ノベルティの仕事として、布袋寅泰さんのマグカップを一緒に作っています。産地の方々の究極の関心は、自社商品を開発することではなく食べていくためにラインを回すことなので、彼らと組むにあたっては、プロダクション的に彼らの仕事を取ってくるということも意識しています。
このプロジェクトでは当初、縫製などの技術を活かした商品開発ができないかと考えていましたが、連携できる企業が福井で見つからなかったため、工場内でできることにシフトチェンジしました。たまたまメーカーさんがレーザーマシンを持っておられ、細やかな表現が可能だったことで、リボンにレーザー加工を施してブックマークを作りました。単価は1シート(2種類のしおりをセット)1260円です。つまりに包装材としてではなく、雑貨店や書店に営業できる商品としたのです。
この商品では国内だけでなく、海外マーケットも攻めていこうと思っています。現在ショップへの卸値は上代の50%〜60%、海外になると45%程度になりますが、関税17%かかる国の場合、製造原価が30%だと赤字になります。そこで壊れない、軽い、かつ原価率を低く抑えた商品が有効なのです。現在アメリカの書店にターゲットを絞って営業をかけています。
この商品を作ることで、メーカーは商品の売上が上がるだけでなく、この商品が広告となって委託の仕事が増えています。産地のメーカーとのコラボレーションにおいてはこのように、意匠設計だけでなく情報の設計も大事なことです。
うちの会社では現在、500軒のショップに商品を卸しています。問屋を通さないで直接やり取りしているので、さまざまな情報をダイレクトに得ることができます。またうちの会社では、委託のデザインの仕事と、自社製品の仕事を、同じ担当者がこなしています。自分で商品開発を手がけていれば、お客さんにいろんな情報を提供することができます。つまり、営業力をつけるという意味があるのです。
Macが普及した90年代から簡単なチラシのデザインの仕事自体だんだんと減って来ているように思います。ざっと見積もっても年間結構な額の市場が僕らの業界から消えたことになります。この時に、デザイン業界では技術自体が商品にならない時代が来ると直感しました。広告のデザインだけをやっていては、いつかジリ貧になる。だからこそ、自分たちから発信していくことが必要だと考えていました。
製造業の大多数は完全受注型でもっていますが、突然5000万円の売上が0になることもあります。自社商品を持っていれば、その売上が減ることはあっても、0になる可能性は少ない。そうした商品が10種類あれば、数千万円の売上になるでしょうし、自社商品が果たす広告効果で、外からの仕事がやって来ます。
ただし請負と自社商品の両方のサイクルを持つためには、社内に営業を置いて、商流を確保することが必要です。また僕らがそうだったように、資金繰りの問題をクリアする必要があります。最終的に自社商品の売上が全体の15〜20%ぐらいになれば、営業担当の人件費が確保できるのではないでしょうか。営業がいれば、お客さんの声を直接聞くことができます。市場の声を商品開発に直接フィードバックすることができれば、そこから好循環を生み出すこともできます。
僕らは今後、産地の製造業の方々とのコラボレーションを、より一層進めていく予定です。フォルムのデザインだけでなく、製造段階での原価設定、製造ロットの設定、販売など、商流全体を構築していくプロデュースも含めて、お手伝いができればと考えています。
・<金谷さん>商品が売れるようになってきた段階で、資金繰りも大切になる。
・ロット数を下げるために、同じ型で色展開を増やすという方法を取っています。
・自ら商品開発を手がけ、ショップと直接やり取りすることで、さまざまな情報をダイレクトに得ています。
・自社商品開発と、ノベルティの仕事(委託商品)の両方を、産地企業にも提案しています。
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